奈良の地酒を紹介するなかで、これまでたびたび登場してきたのが、御所(ごせ)の油長酒造がつくる風の森です。しぼったあとに加水も濾過も加熱もしない、生のままの酒。
ただ、いざ買おうとすると種類が多くて、迷ってしまわないでしょうか。
秋津穂657、秋津穂507、雄町807、露葉風807、山田錦807、ALPHA 1、笊籬採り——。
同じ「風の森」なのに、名前も数字もばらばらに並んでいます。どれがどんな特徴を持っているのか、ぱっと見ではわかりません。
私は奈良に住んでいて、この地酒を何度も飲んできました。それでも最初のころは、数字の意味がわからないまま、名前の雰囲気で選んでいました。
でも、あの数字には意味があり、理解すれば選ぶ際の一つの指標になると思います。
この記事では、風の森の数字の読み方と、米ごとの違い、そして合わせたい肴までを書いていきます。
風の森の早見表
先に全体像をまとめておきます。
| 蔵 | 油長酒造(奈良県御所市)。1719年(享保4年)創業 |
| 名前の由来 | 金剛山・葛城山系の南にある「風の森峠」 |
| 造りの特徴 | しぼったあと加水も濾過も加熱殺菌もしない。商品の約9割が生酒 |
| 数字の読み方 | 「657」=精米歩合65%+きょうかい7号酵母 |
| まず一本なら | 秋津穂。蔵の看板で、いちばん出回っています |
| 米で選ぶなら | 秋津穂(奈良の飯米)/雄町/露葉風(奈良県産の酒米)/山田錦 |
| 書き手の推し | 雄町。甘いのに後に残りません |
| 一歩進んだ楽しみ | 笊籬採り・真中採り(しぼり方違い)、ALPHA(実験シリーズ) |
| 合う肴 | クリームチーズ×奈良漬、燻製もの |
| 流通 | 特約店(正規販売店)が中心。生酒なので要冷蔵 |
つまり、まず秋津穂を飲んで、そこから米かしぼり方で広げていく。これがいちばん遠回りのない順序だと思います。
「657」の数字の意味
風の森のラベルには、たいてい米の名前と3桁の数字が並んでいます。
読み方はごく単純で、前の2桁が精米歩合、最後の1桁が酵母の番号です。
- 657 = 精米歩合65%、きょうかい7号酵母
- 507 = 精米歩合50%、きょうかい7号酵母
- 807 = 精米歩合80%、きょうかい7号酵母
「秋津穂507」は秋津穂をよく磨いたもの、「露葉風807」は露葉風をあまり磨いていないもの。米の名前と磨き具合を並べた商品名です。
よく磨いた酒と、あまり磨かない酒
精米歩合の数字が小さいほど米をたくさん削っています。一般には、よく磨いたほうが香りが華やかで、削らないほうが米の味が濃く出るとされています。
ただ、風の森は精米歩合80%、つまり2割ほどしか削らない酒を、ラインナップの主軸のひとつに据えています。
507と807は、味の方向が違うだけです。ぜひ色々試してみてください。
精米歩合や酵母そのものについては、日本酒の種類(純米・吟醸・大吟醸の違い)にまとめています。
米で選ぶ|秋津穂・雄町・露葉風・山田錦
数字が読めるようになったら、次は米です。風の森は同じ造りで米だけを変えた商品を並べているので、飲み比べると米の違いがそのまま出ます。
秋津穂|まずはここから
秋津穂は奈良の気候に合った飯米で、販売店の解説では「風の森好適米」とも呼ばれる契約栽培米です。看板の657もこの米です。
蔵や販売店の紹介では、白ブドウや梨のような瑞々しさ、メロンや白桃を思わせる香り、そしてぷつぷつとした微発泡感が挙げられています。
柔らかい旨みと甘み、軽やかな酸があって、余韻はスッと引くタイプ。
私が飲んで受け取ったのは、芳醇で、そのわりに辛口だという印象でした。甘い香りがするのに、飲み終わりは残りません。
雄町|おすすめ
風の森のなかで、私のイチオシがこの雄町でした。
メロン果汁のような甘さがはっきりあって、それでいて甘口のようにくどくならない。きれいにキレていきます。
この「甘いのに残らない」ところが、風の森の雄町の持ち味です。
販売店の解説でも、雄町は完熟したふくよかなイメージで、夕張メロンのような香り、まるい甘みが余韻に残る、と説明されています。ワインでいうとリースリング、というたとえもありました。
私の実感ともそう遠くありません。
誰かに1本すすめるなら、私は雄町を選びます。
露葉風|奈良県産の米
露葉風(つゆはかぜ)は奈良県産の酒米です。奈良の蔵が奈良の米で仕込んでいる、という点で、地元としては応援したくなる一本。
販売店の解説によれば、露葉風は雑味のもとになる成分が多い米で、酸や苦味をふくむ複雑な味わいが出るそうです。
まくわ瓜のような香り、という表現もありました。
素直に甘い方向ではなく、引っかかりのある味を求めるときの選択肢になります。
山田錦|キレを取りにいくなら
山田錦はタンパク質が少なく、しっかり発酵して余韻にキレが出ると説明されています。
香りはライチやマスクメロン。ワインでいうとシャルドネ、というたとえもありました。
秋津穂や雄町の甘い印象に対して、もう少しすっきりした側に振りたいときの一本です。
一歩進んだ楽しみ方|しぼり方とALPHA
米の次は、しぼり方です。同じ米・同じ数字でも、しぼり方だけを変えた商品が別に並んでいます。
笊籬採り(いかきどり)
タンクのもろみに、竹籠のようなスクリーン(笊籬)を沈めます。そこへしみ出してきた清酒を、圧力をほとんどかけないまま、空気に触れさせずに取り出す方法です。
酒がほとんど空気に触れないので、溶存酸素がきわめて少ない状態で蔵出しされるとされています。笊籬採りに関しては、私は他の酒蔵で見たことがありません。
真中採り(まなかどり)
しぼりの最初(あらばしり)と最後(責め)を大きくカットして、真ん中の部分だけを瓶詰めしたものです。いちばん安定したところだけを取る、という考え方ですね。
ALPHAシリーズ
ALPHAは蔵の実験的なシリーズで、番号ごとにまったく違うコンセプトの酒が出ています。
たとえばALPHA 1はアルコール度数14%。日本酒は一般に15〜16%前後なので、それより度数を抑えた設計になっています。それでも飲みごたえはしっかりとあり、洗練された味わいです。
油長酒造という蔵のこと
風の森を造っているのは、奈良県御所市の油長酒造です。
創業は1719年(享保4年)。300年を超える蔵ですが、造っている酒はずいぶん現代的です。
「風の森」は峠の名前
銘柄の名前は、金剛山・葛城山系の南に位置する「風の森峠」に由来します。地名がそのまま酒の名前になっています。
御所のあたりを走ると、この名前がその土地のものだというのがよくわかります。
仕込み水は、葛城山麓の地下100mの岩盤から湧く、ミネラル分の多い地下水です。
加水も濾過も加熱もしない
風の森の造りでいちばんはっきりしているのは、しぼったあとに加水・濾過・加熱殺菌をしないことです。いわゆる無濾過・無加水・生酒です。
商品の約9割が生酒とされています。
だから栓を開けるとぷつぷつと細かい泡が立ちますし、冷蔵庫で保管する必要もあります。手はかかりますが、あの弾ける感じは加熱していない酒ならではだと思います。
生酒の扱いは、日本酒の保存方法にまとめています。
同じ蔵の「鷹長」と「水端」
油長酒造には、風の森のほかに2つの銘柄があります。
- 鷹長(たかちょう)……室町時代の「菩提酛(ぼだいもと)」の製法を復活させた銘柄。1996年から
- 水端(みづはな)……室町時代の醸造法にならい、甕で仕込む。2021年から
菩提酛は奈良の正暦寺で生まれたとされる造りです。奈良で清酒が生まれたころの造りを、同じ蔵がいまも現役で仕込んでいることになります。
このあたりの背景は、奈良は日本酒発祥の地に詳しく書いています。
風の森に合わせたい肴
「酒と肴」を掲げているサイトなので、ここは書いておきたいところです。
居酒屋で風の森が出てきたとき、私がよく合わせているのはクリームチーズと奈良漬を合わせたものです。
奈良漬もクリームチーズも発酵食品なので、風味が引き立て合うと説明されています。実際、口の中でけんかしません。
奈良漬の粕の香りと、チーズのねっとりした乳の感じが、秋津穂や雄町の芳醇さと同じ方向を向いています。
もうひとつ好きなのが燻製ものです。スモークチーズでも、燻製の卵やナッツでも。香りの強いものを、あの微発泡がすっと流してくれます。
蔵や販売店の側では、秋津穂に野菜料理を合わせる提案もされていました。水菜のからし和え、茗荷のお浸し、焼き丸なす。甘みと苦みのある野菜に寄せる方向ですね。
日本酒と肴の組み合わせは、日本酒に合うおつまみにタイプ別でまとめています。
どこで買うか
風の森は特約店(正規販売店)を中心に流通しています。スーパーやコンビニで見かけることはほとんどありません。
私は、十津川や洞川からの帰りに五條へ回って北へ抜け、御所の酒屋に寄って買うことが多いです。冷蔵ケースに並んだ風の森を眺めながら選ぶ時間が、わりと好きです。
生酒なので、買ったら冷蔵庫へ。
通販でも正規店が扱っていますが、要冷蔵なのでクール便になります。
よくある質問
Q. 風の森の「657」はどういう意味ですか?
前の2桁が精米歩合、最後の1桁が使用酵母の番号です。
657なら精米歩合65%・きょうかい7号酵母、507なら精米歩合50%・7号酵母、807なら精米歩合80%・7号酵母になります。米の名前と組み合わせて商品名になっています。
Q. 風の森は、どれから飲むのがいいですか?
秋津穂をおすすめします。蔵の看板でいちばん出回っていて、風の森らしい微発泡感と甘み、そしてキレを一通り味わえます。
そこからは、米を変えるか、しぼり方を変えるかの2方向です。米なら雄町、露葉風、山田錦の順に。しぼり方なら笊籬採りや真中採りがあります。
Q. 冷蔵庫に入れないとだめですか?
はい。風の森は商品の約9割が生酒で、加熱殺菌をしていません。要冷蔵で保管してください。
Q. スーパーで売っていないのはなぜですか?
特約店(正規販売店)を中心に流通しているためです。酒販店か、正規店の通販で探すことになります。
まとめ
風の森で迷ったら、まず数字を見てください。前の2桁が精米歩合、最後の1桁が酵母。米の名前と、この2つの組み合わせだけで商品名ができています。
最初の一本は秋津穂。そこから米を変えるか、しぼり方を変えるかで広げていく道すじです。
個人的には雄町を推します。甘い香りがはっきり出るのに、飲み終わりが重くならない。この組み合わせは他であまり出会いません。
合わせるなら、クリームチーズと奈良漬。奈良の酒と奈良の漬物という、ちょっと出来すぎた組み合わせです。
風の森峠は、いまも御所の山あいにそのまま残っています。次の一本は、名前ではなく数字で選んでみませんか。
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